サブスクリプションビジネスの流行で注目を集めている職種があります。顧客を成功に導くことで自社の利益を最大化するカスタマーサクセスマネージャー(CSM)です。
「いかに多く売れるか」と同じくらい「いかに長く利用してもらえるか」が重視される現代において、ビジネスの成否をわける重要な職種といえます。 しかし、その重要性に反して日本では未だ一般的とは言いがたく、キャリアパスも描きにくいため、CSMのキャリアを積むことに躊躇する方も少なくありません。
日本におけるCSMの第一世代が1人でも多く誕生することを願って、CSMに秘められたポテンシャルをご紹介したいと思います。
カスタマーサクセスマネージャー(CSM)とは、”マネージャー”とありますが、職位としての”マネージャー”を表しているわけではありません。
「顧客の成功をマネジメントする」という意味で、カスタマーサクセスマネージャーと呼ばれており、カスタマーサクセスを担う職種になります。
カスタマーサクセスはよくカスタマーサポートと混同されますが、内実は全く異なります。カスタマーサポートは、顧客からの問い合わせやクレームに受動的に対応するのに対し、カスタマーサクセスは能動的に顧客に働きかけます。
なぜなら、カスタマーサクセスのミッションは「顧客の望んだ成果を創出する」ことにあるからです。サービスやプロダクトを利用することで成果や成功が得られれば、顧客はそのサービスをずっと使い続けてくれるでしょう。顧客がずっと使い続けてくれることで、事業が成長できるのです。
顧客を成功に導くことで自社を成功させる、それがCSMの役割です。
※参考:ferret,「
このように顧客や自社を成功に導くCSMですが、ではこの職種はCSM自身にはサクセスをもたらしてくれるのでしょうか。
「周囲にロールモデルが少なく、キャリアパスが描きづらい」「CSMとしてキャリアを積んでも、メリットがあるのだろうか?」といった不安を抱えている方も多いと思います。
答えはもちろん「YES」です。CSMは、自身のサクセスをつかみ得る将来有望な職種と言えるでしょう。
その理由を2つ紹介します。
CSMの仕事は、顧客と自社にWin-Winの関係を築くことです。
そのためには、プロダクトトレーニング・アクティビティデータの分析・顧客側業務フローの設計・プロジェクトマネジメントなど、多岐にわたる業務をこなす必要があります。
こうした、いくつもの役割を果たすことで、ビジネスマンのコアスキルともいうべき汎用性の高いスキルが高次元で複数身につくのです。
具体的にCSM業務を通してどのようなスキルが身につくのか、その一部を見ていきましょう。
カスタマーサクセスを行う上で、何よりもまず必要なのは、業界・カテゴリー・プロダクトに関するレベルの高い知識です。
プロダクトへの深い理解をもとに、顧客の日々の体験に沿った話ができることは前提ですが、それだけでは顧客を成功へ導くのに十分ではありません。
高度な提案や実装が求められるカスタマーサクセスにおいては、業界や特定の企業カテゴリーが抱える構造的な課題や市場トレンドを把握していることが必須になります。
加えて、そこにプロダクトに関する技術的な知識が加われば、プロフェッショナルとしての価値が高まります。
顧客はプロダクトに対してフィーを支払っているのであり、CSMとの心地よい会話にフィーを支払っているのではありません。そのため、CSMは誰よりもプロダクトに関して精通している必要があります。顧客は、技術的な点も含めて、あらゆる質問や懸念点に回答してくれることを期待しているのです。
思考力はCSMにとって絶対に欠かせないスキルです。思考力とひと言でくくりましたが、この中には理解力・分析力・仮説構築力などいくつもの副次的なスキルが含まれます。
カスタマーサクセスの役割の一つに、アダプションという業務があります。簡単にいうと、サービスをある程度使えるようになった顧客に対して、顧客にとってのサクセスを定義し、そのサクセスに向けてサービスの利活用を支援していく業務です。
カスタマーサクセスにあまり知見がない方は「サービス提供側の意図に沿ってサービスを利用することが顧客のサクセス」と考えてしまうかもしれませんが、それは違います。
顧客は何か成し遂げたいことがあり、それを達成する手段としてサービスを選んでいます。
「サービスを提供側の意図通りに使用すること」と、「顧客が成果を実現すること」は必ずしもイコールではありません。
カスタマーサクセスでは、サービス利用の先にある「顧客が成し遂げたいこと」を共通認識のもとで定義し、その実現のための支援をしなければならないのです。
そのためには、プロダクトやユースケースに関する造詣が深いのは当然のこととして、顧客の業務や課題、果ては業界構造に関しても幅広く理解していることが求められます。
また、顧客が抱える課題に適切に対処するためには、徹底したデータ分析に基づく仮説ドリブンなアプローチも必要です。リソースは有限なので、常に優先順位を考えることも大切でしょう。
こうした業務を通して思考力が身につくのです。
調整力・コミュニケーション力もCSMに必須のスキルです。顧客を成功に導きながら末永く自社サービスを利用してもらうためには、長期にわたり顧客と良好な関係を保ち続けることが必須でしょう。
顧客に自社サービスの利用を拡大してもらう場面では、特に高度なコミュニケーション能力と調整力が必要となります。アップグレードや関連サービスを適切に提案するためには、顧客と良好な信頼関係を築き、顧客の抱える課題を正確に理解していなければならないからです。
また、社内においても部門を横断して協業する推進力が求められます。チームプレイはどんな職種にも必要ですが、カスタマーサクセスほど多くの部門の協力で成り立っている職種はないのではないでしょうか。顧客の成功を実現するためには、営業やマーケティング、開発やサポートなど多くの部門からのインプットを得つつ、他部門へのアウトプットを提供するなど、複数部門の中心となる舵取り役が必要になるのです。
こうした業務を通して、社内・社外の調整力が身につきます。
カスタマーサクセス先進国であるアメリカでは、すでにCSMという職種は社会に浸透しつつあります。
世界最大級のビジネス特化型SNS、Linked inが発表した「
また、同社が発表した「
カスタマーサクセスの重要性が増しているということは、顧客に関する最上級役員職CCO(Chief Customer Officer・最高顧客責任者)を設置する企業が増えていることからもわかります。
特に、売り切りビジネスの雄ともいえる世界最大の小売りチェーンWalmart社が、2018年にCCOを新設したことは大きな話題となりました。
Walmartはオンラインで購入した商品をドライブスルーのようなシステムで車から降りることなく受け取ることができる「カーブサイドピックアップ」というサービスを始めて好評を得るなど、早速CCO設置の効果をあげています。
日本はアメリカの3年遅れでカスタマーサクセスが発展してきた歴史があり、急速に普及した2018年はカスタマーサクセス元年と呼ばれました。
まだまだ市民権を得るほどではありませんが、国内でもカスタマーサクセスの重要度はじわじわと高まりつつあります。
株式会社リンクが2021年1月に行なったIT企業の経営者に対する「カスタマーサクセスに関する認知度調査」では、カスタマーサクセスの認知度は28.6%という数値にとどまりましたが、カスタマーサクセスを認知しているIT経営者のうち72%が「事業戦略として重要」と回答しました。
現在では、SaaSやサブスクリプションの流行を背景に、非ソフトウェア業界においても広まっています。
例えば、洗剤やトイレタリー、化粧品といった日用品を製造・販売する花王やファシリティマネジメント事業を行うイオンディライトは、新たにカスタマーサクセス部門を設置しました。また、OA機器・カメラ製品を製造するリコーでは、カスタマーサクセス長が就任するといった動きがあります。
事業成長のキーになる職種として注目されているCSMは、これから日本においてもますます重要性が増していくはずです。
※参考:ferret,「あらゆる業界が注目!カスタマーサクセスが重要性を増している理由とは?-前編/後編」,2021 (
日本よりもカスタマーサクセスが発展しているアメリカでは、多くのCSMが「修行」した後にキャリアのステップアップを果たしています。この理由は簡単で、CSMほど有能な人材はいないからです。
CSMになることで、顧客の抱える課題や思考回路、実際のサービスの利用方法を間近で観察し理解する貴重な機会を得ることができます。また、顧客の成功という本質的なミッションに対して、社内外の全ての知識・経験を集約しながら、腰を据えて挑むことができます。マーケティングや営業、サポート、プロダクト開発では、こうした経験はなかなか得られません。
結果として、CSMは社内・社外のいずれにとっても欠かせない存在になるのです。結果を出してきた優秀なCSMにはキャリアアップの道がいくらでもある、ということにも頷けるでしょう。
注目が集まっているとはいえ、CSMは何十年と存在してきた職種とは違い、まだ新しい分野です。アメリカなどではすでに多くのCSMが活躍をしていますが、日本ではまだ花開く寸前の蕾ともいえる職種です。
現時点ですでにカスタマーサクセスの世界に飛び込んでいるCSMは、この分野のパイオニアです。サブスクリプションがビジネスを席巻し、カスタマーサクセスが益々重要視されていく流れの最先端で、貴重なカスタマーサクセス実践者の「第一世代」として、自らのキャリアに花を咲かせることができるでしょう。
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