SaaSやサブスクリプションといったビジネスモデルの企業では、重要な指標としてチャーンレートを設定している企業も多く見受けられます。こうしたチャーンレートには、いくつかの種類があることはご存知でしょうか。
今回は、それぞれのチャーンレートの詳細や、事業成長において理想的な状態とも言えるネガティブチャーンについて、解説します。
チャーンレートとは「解約率」のことで、契約中の顧客がサービスを解約する割合を示すものです。
SaaSやサブスクリプションのビジネスモデルでは、「いかに継続して利用してもらえるか」が事業成長の鍵になります。なぜなら、サービスを導入してもらった時点では契約までにかかったコストを回収できておらず、継続して利用してもらうことで初めて利益が出るからです。そのため、サービスを継続して利用してもらっている割合を示すチャーンレートは重要になります。
チャーンレートには大きく分けて、顧客数(カスタマー)を元にしたカスタマーチャーンレートと、収益(レベニュー)を元にしたレベニューチャーンレートの2種類があります。
《ある時点で契約している顧客のうち、一定の期間内に解約した顧客や有料プランから無料プランにダウングレードした顧客の割合を示すもの》です。
カスタマーチャーンレート=一定期間で解約した顧客数 ÷期首の顧客数×100
《ある時点であげた収益のうち、一定の期間内に減少した(増加した)収益の割合を示すもの》です。
収益を変動させる要因は、解約以外にもいくつか考えられます。減少させる要因としては上位プランから下位プランへのダウングレードもあるでしょうし、増加させる要因としてはアップセルやクロスセルもあります。
そのため、レベニューチャーンレートは、収益を変動させた要因に応じてさらに2種類に分類することができます。
①グロスレベニューチャーンレート
《解約やダウングレードなど収益を減少させる要因のみにフォーカスし、一定期間内で生じた損失額の割合を示すもの》です。
グロスレベニューチャーンレート=期間内の損失額÷期間内の総収益×100
②ネットレベニューチャーンレート
《解約やダウングレードなどの減少要因に加えて、アップセルやクロスセルなどの増加要因も含めて、一定期間内で生じた損失額(利益額)の割合を示すもの》です。
変動した収益全てを考慮するので、最終的に増収していればマイナスの値になります。
ネットレベニューチャーンレート=(期間内の損失額 − 期間内の利益額)÷期間内の総収益×100
具体的な数値を用いて、それぞれのチャーンレートをどのように計算するのか見てみましょう。
[期首の契約状況]
・5,000円プラン×10人
・10,000円プラン×10人
[期間内の変動]
・5,000円プラン→10,000円プランにアップグレード…4人
・10,000円プランの解約…3人
・10,000円プラン→5,000円プランにダウングレード…3人
[期末の契約状況]
・5,000円プラン×9人
・10,000円プラン×8人
顧客数に着目すると、20人から17人に減少しています。そのため、前述の計算式に当てはめると、
カスタマーチャーンレート=3÷20×100=15%
となります。従って、この期間のカスタマーチャーンレートは15%となります。
①グロスレベニューチャーンレート
今度は収益に着目します。損失額のみにフォーカスすると、
期間内に10,000円プランの解約が3人で10,000円×3人=30,000円、
10,000円プランから5,000円プランへのダウングレードが3人で5,000円×3人=15,000円、
合計45,000円の損失があったことがわかります。
これを前述の計算式に当てはめると、
グロスレベニューチャーンレート=45,000÷(5,000×9+10,000×8)×100=36%
となります。従って、この期間のグロスレベニューチャーンレートは36%となります。
②ネットレベニューチャーンレート
続いて、期間内の収益額全体にフォーカスしたいと思います。損失額は先ほどの計算通り45,000円、利益額は、5,000円のプランから10,000円のプランへのアップグレードが4人で5,000円×4人=20,000円となります。これを前述の計算式に当てはめると
ネットレベニューチャーンレート=(45,000−20000)÷(5,000×9+10,000×8)×100=20%
となります。従って、この期間のネットレベニューチャーンレートは20%となります。
以上で見たとおり、顧客数と収益のどちらに着目するかでチャーンレートは大きく変わります。
顧客によって契約金額に差があるサービスの場合は、レベニューチャーンレートを確認することも大切です。なぜなら、カスタマーチャーンレートでは全ての顧客を1カウントとするため、顧客ごとの収益に与える影響の大きさの違いが数値に反映されないからです。
ネガティブチャーンとは、ネットレベニューチャーンレートがマイナスな状態のこと、つまり《解約やダウングレードによる収益減を、アップセルやクロスセルなどの収益増が上回っている状態のこと》です。
先ほど挙げた例を以下のように変更して考えてみましょう。(±変更人数)
[期首の契約状況]
・5,000円プラン×10人
・10,000円プラン×10人
[期間内の変動]
・5,000円プラン→10,000円プランにアップグレード…8人 (+4人)
・10,000円プランの解約…2人 (–1人)
・10,000円プラン→5,000円プランにダウングレード…2人 (−1人)
[期末の契約状況]
・5,000円プラン×4人 (−5人)
・10,000円プラン×14人 (+6人)
損失額は、
10,000円プランの解約が2人で10,000円×2人=20,000円、
10,000円プランから5,000円プランへのダウングレードが2人で5,000円×2人=10,000円、
合計で20,000円+10,000円=30,000円となります。
一方、利益額は、
5,000円プランから10,000円プランへのアップグレードが8人で5,000円×8人=40,000円となります。従って、
ネットレベニューチャーンレート=(30,000−40,000)÷(5,000×4+10,000×14)×100= –6.25%
となります。
このように収益ベースで解約率を表した時、期間内の収益が最終的に増額していれば、解約率はマイナスの値を取ります。
事業を成長させる上で、ネガティブチャーンの実現を意識することは非常に大切になります。 その理由は以下の二つにまとめることができます。
・安定性の向上
継続的な事業成長を果たすためにとるべきアプローチとして真っ先に思いつくのが、新規顧客の獲得ではないでしょうか。しかし、毎月安定して新規顧客を獲得することが難しいのは事実です。特に事業規模が大きくなるほど、この傾向は強くなるでしょう。ネガティブチャーンが実現していれば、新規顧客の獲得に左右されず収益が増加するので事業成長の安定感が増します。
・成長スピードの向上
ネガティブチャーンが実現しているということは、既存顧客からの収益のみで事業が成長しているということです。つまり、新規顧客からの収益はそのまま利益として上乗せされ、より加速度的な事業成長を果たすことができます。
・・・
チャーンレートは、顧客数に着目するか収益に着目するかで分けることができます。収益に着目する場合、損失額のみを対象にするか、利益額も含めるかでさらに分けることができます。既存顧客からの利益額が解約などによる損失額を上回ると、収益ベースの解約率はマイナスになり、この状態のことをネガティブチャーンと言います。事業の安定的かつ加速度的な成長を目指すのであれば、ネガティブチャーンの達成を実現することが大切になります。